罪悪感の行方

罪悪感の行方
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あれ。なんか喉に違和感があるんだけど。

あら。なんか37.5°あるな。

 

夏休みをもらって、社会人とは思えないくらい腑抜けた生活リズムで過ごしていたら、体調悪くなってきた。

 

世の中はコロナの第7波真っ只中。ものすごく不安になる。

翌日、朝イチで病院に電話して、診察に向かった。

 

発熱があるということで、病院内には入らず、外で診断させてくださいと指示があった。

「ですよね!もし私がコロナだったら誰かにうつすわけにはいきません」と病院側の想いを100%理解して、この病院を建設するときは使用することなんて一切想定しなかったであろう建物と建物の狭い隙間を進んだ。

「コロナに感染しているわけがない」とずっと考えていた。

外にあるときはマスクをしていたし、お店に入る前とかはちゃんとアルコール消毒もしていた。

帰ったら手洗いうがいもちゃんとしていた。

出かけるときは車で移動していたので、不特定多数の人たちと接触する機会は可能な限り減らしていた。

ニューノーマル生活を徹底できていたという自信があった。

だから、発熱しようがコロナだとは思えなかった。

夏風邪。これは絶対夏風邪です。

そういえば、毎年この時期は疲れが爆発して体調崩してましたもん。

あー検査してもこりゃ陰性ですね。

 

急遽用意しました感満載の野外診察スペースにたどり着いた。

すると、奥からベテランお医者様が登場した。

 

うわ!地下の施設で地球外生命体をこっそり管理している研究員みたいな格好だ!

 

この世の細菌は私の身体に触れることは許さないという気持ちを感じる装備でお医者者様が登場した。

なんか自分が汚いものに思えてくる。

 

お医者様に発症した時期や現在の症状を聞かれ、「それでは検査しますね」と伝えられ綿棒を鼻に入れられた。

「1〜2分で結果出ますから」と言われた10秒後に「コロナ陽性ですね」と言われた。

 

早い!結果出るの早くないっすか!?そそそそれだけ強いコロナとかそういうことですか?

 

ちゃんとコロナに感染していたことに、ちゃんとショックを受けた。

ニューノーマル生活様式を徹底していたのに。自分は感染しないとどこかで思っていたが、甘かった。

コロナは目に見えないけど、ちゃんと近くにいるようだ。

 

お会計をしてくれた方がお釣りを渡してくれるとき、腕を目一杯伸ばしていた。

「あぁ。オレはコロナなんだな。」と痛感させられる瞬間だ。

 

家に帰ると、即隔離生活に入った。

自分が触れる場所や空間全てを汚しているような気がして、すごく申し訳ない気持ちになった。

今日から隔離生活が明けるまで、ずっとこの部屋で過ごすのか。

スマホがあってよかった。そのときはすごくスマホがありがたいものに思えた。

 

コロナ陽性判定を受けたので、職場に報告する必要があった。

その日は週末だったので、上司にメールで報告し、症状等の詳細は週が明けてから電話で連絡することにした。

 

週が明け、上司に電話した。

「どうですか?」と私の症状を心配してくれた。

こういうことを言ってもらえるとやっぱり嬉しい。優しさが身体に染みます。

その時の症状は発熱も続いていて、咳も出るし倦怠感もすごかった。本当にしんどかった。

でも、何なんでしょう。

上司に電話でしんどい症状を伝える時って必要以上にしんどさを演出している気がする。

そんなことしなくても嘘偽りなくしんどいし、ちゃんとコロナなのに!

 

「はひぃ。まだ発熱が続いていまヒィてぇ・・・倦怠感がすごいでふぅ・・・。ハァ」

 

逆に嘘くせぇ!!

 

電話というものは不思議だ。

社会人になったとき「電話は普通に話すと暗い印象を与えるからワントーン上げて話すんだ」と教えてもらった。

「お母さんが電話の時だけ高い声になるのはそういうことだったんだ」と初めて理解できる瞬間だ。

これと同じことが体調不良を伝えるときも発動するということか。

元気の良さを伝えるときはより元気よく。

体調不良を伝える時はより体調不良っぽく。

電話は本当に不思議なものだ。

 

電話を切った後、謎の罪悪感が襲ってきた。

上司には素直に症状を伝えたが、電話が終わった後はちょっと元気になった気がする。

電話で伝えたほど体調不良じゃないかもしれない。

どっちなんだ、オレ。

電話での体調不良報告は、心が乱される。

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